Story

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コルメナアート展へのあゆみ

初めて障がい者の⽅に興味を持ったのは、私が 25 歳のときに⽣まれた⻑男が⾃閉症だったからです。

⼦育てはすごくつらかったです。⾔葉でのコミュニケーションが取れず、よく動くし、いつも興味のあるものに⾛って⾏き、⽬も合わないしで、⼀緒に遊べない。どうやってコミュニケーションを取るかということを常に考えて⼦育てしていました。

植⽥聡⼦ 副代表理事(コルメナ施設⻑兼務)

おもちゃで遊ぶようになった頃、⾞のおもちゃのタイヤを回すだけだったり、同じ⾊を集めて並べるだけでした。積み⽊もするのですが、⾊ごとに並べることが多く、⾃分の決まり事があって並べていたんだと思います。

私は、それをただ⾒ているだけで、⼀緒に遊べないということがつらかったです。

そんな時、⼀緒に遊ぶには本⼈と共に楽しんで分かろうとするしかないと思い、私も⼀緒になって息⼦の遊びに⼊っていきました。

そうしたら、彼と⽬が合うようになり、私に興味を⽰してくれたんです。⼀⽣懸命関わったから、すごい共有ができたと実感した瞬間がありました。

彼は⾊の配置にこだわっていることが分かり始め、もしかしたら絵具や⾊ペンなど、他のものに繋げていけるかもしれないと思いました。

粘⼟遊びもしました。⾞が好きだから、粘⼟を団⼦にしてタイヤを作り、⾞になるよって教えたら、それをまた並べて繰り返して遊んだんです。そして、ある時から⾃分でできるようになって。吸収がすごく早くてびっくりしたんです。

最初は、私の真似をしてやり始めたんですが、他にも粘⼟で家を建てたり、⽊を作ったり、道を作り、⾞を⾛らせたりと、どんどん世界が広がっていきました。⾃分で作って遊べるようになっていったんです。

初めはそこまで広がるとは思っていませんでした。すごく可能性があるんだなってことを実感して、私が関わったことで彼の世界が広がるということが分かり、とても嬉しかったです。

それまで⼦育てがすごくつらかったけど、⾯⽩いと思えるようになりました。そこから、障がい者の⽅と関わる仕事がしたいという想いへと繋がっていきました。

そのときは、とにかく勉強してみようと知的障がい者のガイドヘルパーの講習に⾏きました。

⾏ってみたら、すごく楽しかったんです。実習先の施設で、私が楽しそうにしていたからだと思うんですが、施設の⽅から、ここで仕事をしてみたらとお誘いしていただいて、施設で働くことになりました。

仕事をしていく中で、うまくいくこともあれば、うまくいかないこともありました。

利⽤者さんたちが⾃分らしく⽣きられるようになるのはどうしたら良いかとか、利⽤者さんやスタッフの働く環境をもっとこうしたらなどと、いろんなことを考えるようになりました。

最初は、⼦育てになにか役に⽴てばと思ってたことが、仕事となると⾊んな想いが溢れてきました。

その時の職場の先輩が豊⽥でした。

豊⽥も⼀⽣懸命仕事をしていて、私もいろいろなことを教えてもらいながら共に仕事をしていました。その中で、豊⽥と「ここはこうしたらいいよね」とか「こんな⾵に関わったらどうかな」と話すことが増えていきました。

この時には、豊⽥は独⽴を考えていて、私もぜひ⼿伝いたいという話をしていました。

豊⽥も私も若かったので、互いにおぼろげなイメージは持ちつつ、とりあえずやってみようと強い気持ちだけで動き出し、コルメナを作ることになります。

ただ、最初から利⽤者さんがたくさん来られたわけではありませんでした。

利⽤者さんに取り組んでいただくお仕事もあまりないし、何かできることはないかということで、作業の⼀環として刺し⼦をやり始めました。そしてこれが刺繍になっていくんです。

刺繍作品①

初めは難しいかもしれないと思っていたのですが、やり⽅を少しずつ伝えていきました。針を点に刺すこと、次は線の上を縫っていくことと、⼀つずつ上達していき、できることが増えていきました。

そういったやり取りを⾒て、全くそういう取り組みに興味がなかった⼈でも、やってみたいっていう⼈も出てきました。

この過程を経て、改めて作るっていうことはいいなって思いました。

刺繍作品②(①と同じ作者)

5 年ぐらい経った頃です。ゆっくりですがステップアップしていく中で、出来上がったものを少しずつ販売するようになりました。⾼槻市で開催される⼿作り作家のマーケットで、バックや刺し⼦のブローチなどの販売を始めました。

何回か出店していく中で、「この⼿作り感が、すごくいい」と⾔って喜んでくださる⽅や、共感してくれる⽅の声を聞くうちに、⾃分⾃⾝とても勇気付けられ、⾃信へと変わりました。

利⽤者さんたちも各々できることが増えていたということもあり、その頃からそれぞれの個性を⽣かしたものを作っていくことがいいのではと思いました。

刺繍作品③(①と同じ作者の現在の作品)

刺繍が上達した⼈もいれば、⾃分でデザインを考えてできるようになった⼈もいます。縫うのが早くなった⼈もいるし、⼈によっては同じ繰り返しがすごく好きで、その出来たものがすごく⾯⽩いものになってる⼈もいます。

いろんな⽅がおられて、私は皆さんのファンで、⾯⽩いと思っていて、すごくいいところを本当に⽣かせるように私は⽀援できたらと思い続けています。

コルメナの利⽤者の⽅には、絵を描いてる⼈もたくさんおられます。

パッと⾒は同じ絵柄を描いているような⼈もいるのですが、よく⾒るとそれぞれ違っていて、⾊合いだったり、筆圧の強弱など、様々な表情の⾒える絵がたくさんあります。

その⼈は、多分同じ絵を描くことで安⼼されるから毎⽇絵を描いていると思います。

毎⽇、全然飽きずに同じことを繰り返しできて、それをだんだん広げていったら、アートになっているといいますか、⾯⽩いことになっているんです。

描いている本⼈は、アートをしてるっていうつもりはないと思います。芸術だと思ってるわけじゃないんです。その繰り返しの⽇常が⼼地いいからされてるっていう、そういうことなんだなって私は思っています。何かやろうと思って作るんではなくて。

⾃分らしく⽣きていくための⼀つの⼿段になったらいいな、という思いでやってきました。

そして、コルメナを始めてから 10 年が経ち(2020 年)、今までゆっくりやってきた過程を発表できたらと思い「コルメナアート展~10 年の歩み~」という展覧会をすることにしました。

展⽰場所も決まり、準備を進めていき、いざ搬⼊作業をするという 4 ⽇前に新型コロナウイルス感染症の影響により、中⽌せざるを得ない状態になりました。

⼀時は完全に中⽌にする予定だったのですが、なにかの形で⾒ていただけるのではないかとスタッフと相談し、展⽰作業だけを⾏い、展⽰⾵景を記録しました。